裁縫箱


「ワーイ女や女や」

「こいつ女が使うやつもっとう」

「ほんまや、ほんまや」

Sは五人兄弟の次男坊。すぐ上が姉である。

母に、「家庭科で裁縫箱がいるねん」というと

「ねえちゃんが丁寧に使っていたから、さら(新品)みたいやろ」

と、赤い裁縫箱を用意してくれた。

違う色がええけどなあ、と思ったが、まあええか、と学校へもって行った。

ところが、男は全員、青か黒で、赤い裁縫箱をもってきているのは

Sだけであった。

これにこりたSは、裁縫箱は忘れたり、持っていっても出さないようにした。

二年のときに言葉づかいで注意した先生は、いつでも「忘れてきた」

いうSの態度に業を煮やした。

通知表の家庭科は1になった。

Sの母は、五段階評価の数字は良くも悪くも気にせず、性格の欄に

「温厚」などと記されているかが大切だと考える人だった。

もちろんSも、もの1は気にしなかった。



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